『主よ、人の望みの喜びよ』(ココマss/R18)2013/7/6






「ちょっ…と待って!待って下さいっ!待って!待ってって言ってるでしょ!ココさんーーーッ!!!」
場所は、黒のシーツたゆたう、かの人の寝室のベッドの上。
お互い小さな布ひとつまとってない、生まれたときの姿のままで。


なぜ制止をかけられたのかわからない、といった表情を浮かべた長身巨躯の男…
ココは思うがままにその大きな掌で痩身短躯な男…小松の身体を撫でまわしていた。

「お願いですから待って!ボクの言うこと聞いてくださいっ!」
少し乱れた呼吸を整えながら片手を上げ、ココに向かって「待った」をかける。
ようやく動きを止めたココは不思議そうな顔をして小松を覗き込んだ。




二人がこういう肉体関係になったのはほんの数日前。
それまでに幾多の難関、紆余曲折を経て、ようやく、ようやく恋人と言える関係になった所だった。

出会いは、お互いの共通の知人を通しての紹介。そしてそれからの逢瀬は長い期間をはさんで数度。
それでも惹かれあうのは必然、と互いを求めあうのを止められなかった。
逢えば逢う程、逢わなければその時間が、気持ちを高め、募らせていった。
二人の間には時間、距離、同性同士、ライバル(小松は気付いていないが)といった様々な強くて高くて分厚い壁があったが、それらを乗り越えぶち壊し今に至る。


想いを確かめ、交わし、認め、深め、通じた成人男性二人。
このご時世、明日をも知れぬ世界を生き抜く人間がより想いを深めるために、これ以上時間をかけられないとばかりに、身体を求めあうのは必然。
「恋人同士」という肩書きを手に入れた二人が肉体関係に至るのは、今までかけた時間を取り戻すかのように早かった。




(けど───そりゃ、抱かれることに全く抵抗がないかと言えば嘘だけど…)
小松とココが身体を重ねるのなら、「抱かれる」側になるのは小松だと、覚悟はしていた。
しかし──
(ココさんが…その…ここまで、とは…)
予想もしていなかった。
普段から冷静沈着、泰然自若を常にしている優男…
自身を抑え、他人にも自分にも厳しく、長兄たる資質で持って、誰からも頼られる存在のこの男。

──…それが、見せかけの仮面、ではないだろうが、それだけではない事に気付いたのはいつ頃だったろうか。
「たんに人慣れしていないだけ」ではないのか?
(ひょっとして…ただの世間知らずなんじゃないの?)と。

常に表面には微笑を浮かべ、近寄る女性群(彼は占いを生業にしており、非常に女性にもてた。本人も自覚していたが「困った事」としてとらえている)をいなして遠ざけていた。が、それでも怯まず、さらに追随する女性に囲まれた時、…彼は見事なまでに狼狽していた。
面白くもなくその光景をじと目で見ていた小松だが、助け出す術をもたない自分の無力をひしひしと感じたものだ。


全てを彼の口から聞いたわけではないが、ココの身体の特異性、育ってきた特殊な環境などから、彼自身が数人の身近な知人、友人以外に深く関わろうとはしてこなかった。
そんな彼と出会い、彼の想い人となれた自分はかなりの幸運の持ち主なのだろう。(自分が選ばれたことが未だに信じられないが。)


彼が自分を求めてくれる。
なら、全てを差し出そうと決意した。
──決意した、が。


(もっと、こう落ち着いた…関係になるかと思っていたんだけどなぁ…)
身体の熱を持て余すような、まるで十代のような、性に貪欲な求められ方をするとは思わなかったのだ。
お互いに子供じゃない。そりゃ初めての行為だが、だからこそ、手探りだけどゆっくりと、熱を高め、穏やかにゆるやかに歩み寄れれば良い…
そう思っていたのに。
(ガッつきすぎなんですってば!ココさんっ!!)
そう、初めて身体を合わせた時から、ココは性急に小松を求め、思うがままに小松を貪った。手加減など一切無かったのだ。
小松は無体を強いられ、感じる事は感じたが、羞恥と少々の苦痛にみまわれ、挙句の果てに気を失ってしまった。
そしてその後、普段ならあり得ない所の筋肉痛にも襲われた。

聞けばココも誰かと肌を重ねるのは初めてだと言う。
肌を重ねるうんぬん以前に、彼は他人のぬくもりをまったくと言っていいほど知らなかったらしい。

───『毒』

彼を語るに外せないもの。
彼自身に好んで傍に寄る者はいない。(甘いマスクや占い、美食屋と言った、目先の、自己の利益につながるおこぼれを頂戴しようとする輩は別として)
また、彼自身も他人を寄せ付けなかったのに、どうしてぬくもりを知ることが出来ようか。

初めて小松を己の腕の中に抱いた時「あたたかいね」と呟いた彼の表情は今にも泣きそうな、しかしとても安らかなもので。
小松はどう返したものかと、胸にこみ上げた想いに顔をゆがめ、それでも微笑みを返し、ココの逞しい首に腕をまわし──たのだが。

そこからが怒涛だった。
そう、まるで嵐。



(ダメダメダメダメッ!今その事を思い出してる場合じゃないんだってば!)
息を整えている間、逡巡していたここ数日の出来ごとに顔を赤らめていた小松は、ふっきるように頭をぶんぶんと振りかぶった。
振りすぎて少々くらっときたが、おかげで少し落ち着くことが出来た。
目の前にいる男は何事かと不思議そうに小松を見つめたままだ。
「あのね、ココさん…」
しかし小松ははたと思った。
(遠まわしに言った所で…気付かないか、気づいたうえで曲解して毒舌吐かれるか…)
彼の毒舌には慣れたものだったが、今、この状況ではお断りしたい。
(絶っっ対に恥ずかしいセリフを使うだろうし、言葉攻めというとんだ羞恥プレイをされるに違いない…)
それは避けたい。
トリコといる時には突っ込みに回れる自信はあるが、ココ相手に突っ込みを入れた所でやり返されるのが落ちだ。しかも何倍にも返ってくるのは明白。
仕事柄か元々の性格か、ココは言葉を巧みに操る。語彙も知識も豊富なのだ。
うーん…と唸る小松にしびれを切らしたのか、ココは行為を再開するため手を伸ばしてきた。
マズい。
「ココさんっ…あのですね!」
再度待ったをかけるが、今度は止まらなかった。
不埒に動く掌は、小松の小さな胸の頂に触れ、感触を楽しむように動き出した。
「ダメって言ってるでしょう!正座ッ!!!!」
制止と叱咤の声にびくりと巨体を跳ねさせたココは、姿勢をただし、両腕を己が膝の上に置き、言葉のままに大人しく正座した。
小松も膝を突き合わせる形で正座をする。
…当然、お互い全裸のままである。

コホン、と小さく咳払いをしたあと、まっすぐにココの眼を見つめた。
「ココさん…その…、ですね、あの…」
決意は固めたはずなのに、言葉を上手く紡げない。
あ~とかう~など唸っていると、ココは不安そうな瞳で見つめ返してくる。
(あ~違うんです、ココさんを拒否するような事を言いたいんじゃなくてですねぇ~…)
そうだ、ここで照れてる場合ではない。
二人の今後に関わってくるんだから!
ウヘン、ともう一度咳払いした。
「ココさん、ボクはココさんが好きです!」
「うん、ボクも小松くんが好きだよ」
「あ、ありがとうございます…じゃなくて」
告白に間髪入れず告白を返してくる技を受け感謝をしている場合ではなくて。
「なので!ココさんに抱かれるのはやぶさかでないですし、むしろ光栄だし嬉しいんです」
「ボクも小松くんを抱けて、この上ない幸せを感じているよ」
「ありがとうござ…じゃなくて!」
お願い、黙って聞いててください。
「ですが!…ココさんのやり方だと性急すぎて、ボク、ついていけないんです!」
「…そうなの?」
「…ハイ…」
「とても気持ちよさそうに見え…」
「わぁぁぁあああ!!!」
全ては言わせないぞ!
そうです、気持ちいいですともええ!でもね、
「ボクは!気持ちいい事も!痛い事も!一方的に与えられるのは嫌なんですっ」
「…痛かったの?」
「…それ、なり…に」
ごめんね、気付かなくて、もっと痛み止め、強くしておけば良かったね。と、
「そう!それもです!ココさん、ボクになんかしたでしょう?!」
確かに痛かった。けど、多分、他人が感じるほど苦痛は感じなかったように思う(他人の経験を聞いたことはないけど)
筋肉痛やら疲労感でしんどかったのは確かだが…局地的に痛みを感じる事が無かった。
…あれだけ酷使したのに、おかしなことだとは思った。
「…弛緩効果や鎮痛効果、催淫効果のある成分を合成して塗布したかな?」
前回までの行為で精製したものを思い浮かべ、指折り数えている。
まてまてまて、なぜ指折り?親指から小指まで握りこんで、また開いていくのはなんで?
「そういうの!やめてくださいっ!」
えっ?という顔をしたココは「まずかった?」と眉をひそめた。
「あのですね…ココさんにとったら、ボクを気遣ってくれて、その…ありがたい事だと思うんですけど」
出来るなら、
「ココさんから与えられるものは、全部、受け取りたいんです。…苦痛ですら」
そうなのだ。
ココさんを普通の人と一緒にするのはおかしなことかもしれないが…
彼に「普通」を与えたかった。
余計なお世話かもしれないが、ココ自身が身体の特性を忌み嫌っているのは知っている。
そんな彼に、ボクの身体の為を思っての行為だとしても、『毒』を使ってほしくなかった。
「…そういった”薬”が無くても、ちゃんと、身体を重ねることは出来るんですよ?」
膝の上に乗せられたココの手に、ゆっくりと掌を重ね、包み込む。
「与えらえるばかりじゃなくて…ボクもココさんに分け与えたいんです。分かち合いたいんです」
快感だけでなく、受ける苦痛も、ボクを通して、ココさんにも感じてほしい。
苦痛すらも幸せなのだと、わかってほしい。
「楽しいとか嬉しいとか…そればっかりじゃないでしょう?」
一緒に生きていくなら、嫌なことも、辛いことも必ずある。
避けて通りたくはない。
二人で乗り越えていきたいのだ。
膝立ちをし、ココの目線に合うように顔を近づける。
ココはゆっくりと瞬きをしたのち、小さく頷いた。
その仕種に安堵し、すこし微笑みを返した小松は「んんっ」とまた小さく咳払いした。
「…こっからが本題です」
こつり、と額と額を合わせながらも、視線はそらして。
「ゆっくり、したいんです」
何を?とは問わずともわかったココは、目の前で真っ赤になった小松の顔に口角を上げた。
視線を外していた小松は気づかない。
「…もう、何度か、シたから…その…落ち着いて、出来ますよね?」
「…どうだろう?ボクはまだ小松くんに飢えているからね。もっと貪りたいんだけど?」
「ダメです!それだとダメなんですってば!」
「どうして?」
うーーーーっと低く唸り声を上げる小松は、言うか言うまいか真剣に悩んでいるようだ。
「どうして?」
言わなきゃわからないよ?と困った顔に見えるように、小首を傾げて重ねて尋ねる。
今や、耳どころか首から下、鎖骨あたりまで真っ赤に染まった肌に、内心で舌なめずりしているココに気付かない小松は意を決したようだ。
「ボクが!もっと!ココさんを感じたいんです!!」
想像していたよりやや上を言った発言に驚きと喜びを隠せなかったココは、「へ」と心底間抜けな発音で答えた。
小松の全身はすでに真っ赤に火照り、うっすら汗まで滲んできている。
「…実感が、わかないんです。…お、終わったあと、その、余韻とか、気怠さで、だ、抱かれたんだなぁ~って、思うんですけど…」
事の最中は夢中で、ただただ快感を追うばかりで、気持ちが追い付かない、と。
「それに…ココさんにばっかりしてもらって…その、一応男として…なんというか…」
小松がココを気持ちよくさせたいのだと言う。
「…ボクはもう十分気持ち良いけど…?」
「ですから!そ、それじゃだめなんですよっ!」
もちろん、自分の身体で気持ち良くなってくれてるのはすごく嬉しい。
自分の身体に一切の自信が無い小松は、まずそこが不安だった。
そもそも、ココが自分の身体に欲情してくれた、という事自体が奇跡だと思ったほどだ。
あまつさえ、飽くことなく何度も求めてくれている。…ちょっとしつこいくらい。
嬉しい。嬉しいのだけど。
男としての矜持が”マグロ”な自分を許せなかった。
高望みだけど…男として対等でありたいと思うのだ。
横に立ち並べば自分がかすんで見えることくらい自覚している。
「何を無謀な」と言う嘲笑が聞こえそうだが、小松はただ受け身でいるだけの性格ではない。
そもそも危険なハントに行きたがるような向こう見ずで無鉄砲なのだ。
こうと決めたら譲らない自他ともに認める頑固な意志の持ち主なのだ。
そんな彼が、ただ与えられる快楽を享受するだけなんて。
どちらかと言うと、与えることに快感を感じる性質なのに。

(だから…ボクがどれだけ気持ちいいのか、幸せなのか…ココさんに知ってもらいたい)
ココの太い首に両腕をからませると、鼻先が触れるか触れないかの距離まで顔を近づけて、呟く。
「今日は…ボクの好きなようにさせてください。…ココさんは、動かないで?」
甘い、甘いおねだり。
ココが非を唱えることがあり得るだろうか。
「…存分に」
それだけを零して、ゆっくりと、長い睫毛を従えてココは瞼を閉じた。
了承を得た小松はしてやったり、と無邪気な笑顔を湛えたが、瞳の閉じられた端正な顔に、「よしっ!」と気合を入れて一世一代の戦いに挑むように、自らの瞳を閉じて、ゆっくりと、唇が重なる様に近づけていった。





静かな室内に、時折響く水音。
お互いの舌が絡み合い、深く弄り合っている。

先ほどの言葉通り、ココからは動いていない。
小松がココの唇に己の唇を重ね、その柔らかい感触を楽しむ様にくっつけたり離したりを繰り返す。
はじめは軽くついばむ様に。
だんだんと大胆な動きをするようになった小松は、薄く開いたココの唇に舌を差し込んで、歯列をたどる。
(歯も、おっきい…)
綺麗に並んだ歯列をひとつひとつ確かめるように縁取っていくと、尖った犬歯がちくりと舌を刺す。
(なんでも噛みきれそう…顎の力も強そうだし、きっと、骨なんかも前歯で噛み砕けちゃうよね)
品を重んじるココは決してしないだろうが、その気になれば大きな肉の塊も易々と喰いちぎれるだろう。
(ボクの舌なんか…簡単に噛みきれるだろうなぁ)
ほんの気まぐれでココが口を閉じれば、きっとあっさりと小松の舌など噛みきれるのだろう。
そんな事を考えるが、恐怖は感じない。
絶対、ココさんはそんな事をしないという信頼。
それに、逆もまた然り。
柔らかな舌なら、小松だってココを傷つけることが出来る。
でも、絶対にそんな事はしない。しないと、ココも思っている、と思う。
(小松にならされてもいい、と思っている自虐精神を持ち合わせたココに、この時の小松はまだ気づいていないのだが)
互いの信頼。
それが嬉しくて、小松はより舌を潜り込ませた。
ココの舌先を突き合わせ、表面をなぞる様に奥へと滑らす。その帰りに上あごをたどり、快感を引き出そうと繰り返す。
口内には唾液があふれるが、零れないようにココが飲み込んでいる。
それでも飲みきれなかった唾液が、口の端から筋を作って顎まで伝わっている。
「は…」
時折、息苦しくなって唇を離すが、すぐに重ね合わせ、貪る。
長い、長いキス。
飽くことなく繰り返す。
(気持ちいい…)
小松が主導権を持ってのキス。
自分が気持ち良く感じる所を集中的に攻めているが、ココは気持ちいいのだろうか?
小松が尋ねる様に重ねると、答える様にからめてくれるが、どうにも余裕を感じる。
(あんまり、気持ちよくないのかな…?)
それでも執拗に口内を這い回らせた。

どちらの舌か感覚がわからなくなった頃、ようやく小松が解放した。
キスをしただけだというのに、軽く息が上がっている。
ココはというと、目元を少し赤らめていたが、「もう終わり?」といった風情で飄々と小松を見つめていた。
少し悔しくて、濡れているココの唇に顔を寄せると、こぼれた残滓を舐めとろうと舌を突出し、丁寧に顎先まで舌を這わせた。
そしてそのまま首筋をたどり、鎖骨に朱い花を咲かせた。いくつも、いくつも。

首に回していた両手は、キスの間ずっとココの髪を梳いていた。
黒くしなやかな、少し癖のある髪質。
まっすぐじゃなくて、時には気ままにはねている。
愛おしくて、何度も何度も髪に指を絡ませていた。
普段はターバンのように幾重にも重ねられた包帯で包み込まれてある。
(ココさんの髪に触れる機会なんてめったにないんだから…)
触り心地を身体に覚え込ませるように、何度も何度も指を差し込む。
「ねぇ…小松くん。ボクも髪、触っていい?」
動くなと言われた手前、いままで言いつけどおり大人しくしていたココだったが、さすがに手持無沙汰だったらしい。
「それと…体勢、かえてもいいかな?このままだと、少し、辛いかな」
正座の姿のまま、微動だにしていなかったココはそう断りを入れると返事を待たずにベッドの壁際に移動し、いくつかのクッションを背に壁にもたれ込んだ。
(あ…これは、気を使ってくれたんだ…)
ココが辛いから体勢を変えたのではないだろう。きっと。
ココはその気になればどんな辛い姿勢だろうが何時間でも微動だにせず居れるに違いない。
ただ、小松は膝立ちで、しかもそれでもココを仰ぎ見る姿勢だったので、小松自身が体勢の辛さを感じていた。
かといって、小松の力でココを押し倒せるはずもなく。
小松にとって楽な姿勢に持ち込んでくれたのだ。
小松を自分の身体の上に乗せる様に配置し、小松の全体重がココにかかっている。
それでもココは全く意に介せず(多分本当に重くも苦しくもないんだろうが)「さ、続きをどうぞ?」と言わんばかりに両手を広げている。
(ほんと…かなわないなぁ…)
くすりと笑って、お礼をこめて、軽くキスをする。
そして再び髪に指を差し入れ、感覚を楽しんだ。
ココも同じように小松の髪に指を差し入れ、遊んでいるようだ。

ささいなふれあいが心地よくて。
(も、このままでもいっかなぁ~)
なんて、ほんわか思っていると、「小松くん」と少々たしなめる感じの声が降りかかった。
おっとそうだった。
今は…セックスの最中だったのだ。
しかも小松から「自分がするから動かないで」と持ち込んだ。
あはは、と苦笑いを浮かべた小松に「わかってる?」と、ややじと目で訴えられた。
(わかってますよぅ~)
そうだ、じゃれあいも楽しいけど、まずはココに気持ち良くなってもらいたいのが先決。
(でも…こうやって、ふれあってるだけでも、幸せなんですけどね?)
肌を重ねて、体温を分け合う。
小松の基礎体温は人より少々高めのようだ。
ココは反対に低い。
だから、互いの体温が気持ちいい。
(でも…ココさんの体温が高くなる時がある)
体調が悪くて、発熱しているのではなく。
小松と身体を重ねて、お互い上り詰めていくとき…
ココを熱いと思う。
普段はめったに見ない汗を滴らせ、小松を求める。その時。
それを思い出し、一気に小松の体温が向上した。
(いや、だから!…ボクが今から、ココさんを、そうさせるんであって…!)
ボクが体温上げてる場合じゃなくて!
ぶんぶんと軽く頭を振ると、そんなボクの思考を知ってか知らずか、微苦笑を湛えたココと目が合う。
(…いくらなんでも、人の思考までは覗けませんよね?)
ココさんなら見透かしてしまいそうだけど、と。

気持ちを幾分切り替えて、先ほど散らした朱い跡に再び口づける。
普段なら、ここも隠されている場所。
色白とまではいかないが、陽には焼けていない健康な素肌。
肌触りも良くて、首筋から肩にかけて逞しい僧帽筋に指を這わせる。
そのまま大胸筋にたどり着き、また鎖骨をたどって首筋をなぞる。
「…小松くんて…筋肉フェチ?」
「フェチかどうかはわかりませんが…うらやましいですね」
ボクにはあまりありませんから。
トリコやゼブラほどではないが、ココにも一般男子よりも立派な筋肉が付いている。
ピッタリとした服を常に身にまとっているココだが、それでも着やせして見えると思う。
脱いだらすごいんです、を地で行く身体だ。
骨太だし…少々の力を加えたぐらいではびくともしない頑丈な身体。
同じ男として悔しくなるくらいうらやましい。
小松とて、男らしい身体にあこがれないわけではない。
これでも肉体改造しようと筋トレに励んだ日々もあった。
今は毎日が肉体労働で、小柄ながらに人一倍体力はある方だと自負している。
が、いくら鍛えても鍛えても、筋肉の質がちがうのか、望んだような筋肉はつかなかった。そして諦めた。マッチョは無理だ。
一時だけ、食材の力を借りてマッチョになった時があった。
が、当時は確かに嬉しかったが、普段と違う体つきに周りはビビるし気持ち悪がられるし、なにより動きにくかったのだ。
慣れ親しんだのもあるが、料理するには今の身体で十分だと思った。
一度でも夢のマッスル体型になれたのだから、それでよしとする。
それでも、目の前の、この男の身体がうらやましくて憎たらしくて。
カプリ、と少々強めに鎖骨に歯を立てる。
ほんの少し眉をひそめて痛みに耐えたココは、咽の奥からクツクツと笑い声を忍ばせて、楽しげに小松の髪に指を絡めた。
軽く噛み跡をつけて満足すると、「ごめんなさい」との意を込めて舌を這わせた。
そのまま身体を少しずつずらし、舌を這わせ続ける。
胸の先端にたどり着くと、そのまま口に含んで、吸ってみる。
特に味はしない。当然だ。
舌で捏ねたり、突いたりしていじってみるが、たんなる反応で固くはなったが、別段気持ちよさそうでもない。
(…ボクがおかしいのかな?)
いつも、ココにされればくすぐったくて、そしてだんだん気持ち良く感じる部位。
ちらりとココを仰ぎ見たが、特に変わりなく微笑んでいる。
(むー…もっと感じてほしかったのに)
全員が全員感じる場所ではないようだ。
女性でもあまり感じない人がいると何かで聞いたか読んだ事があるのを思い出したので、やっぱり人それそれなのだろうと、しばらく口内で遊んだあと、解放した。
(ココさんに…もっと気持ち良くなってもらいたいのに…どうしたらいいのかな)
自分から持ちかけたのに、うまいこと事が運ばなくて、少し、途方に暮れる。
まだ何もしていないというのに、徒労感だけがあって。
ふぅ、と少し息をついたあと、全体重をココの身体の上に預けた。
甘えるように、頭をココの顎下にいれ、動物がするようにこすりつける。
左腕をココの背中とクッションの間に差し込んで抱きかかえるようにし、もう片腕でココの片腕を引き寄せ、お互いの胸の間に挟み込む。
「ボクね…本当に、こうしてるだけで、すごい気持ちいいんですよ?」
わかりますか?
目の前にある、立派な咽仏に唇が触れるくらいの距離で話しかける。
「ココさんがね、こうやって、素肌を触れさせてくれるのって…ボクだけでしょう?」
軽く上下した咽仏に、今度は唇で触れさせて。
「ふふ…ここって、急所じゃないですか。そこをね、こうやって、好きに触れさせてくれているのが…すごい、嬉しい…」
きっと、このまま噛みついたって、ココにはなんのダメージも与えられないだろう。脅威にもならないに違いない。
それでも。その事実が嬉しくて。
大きく口をひらいて、噛みつくように歯を当てて。
そのままべロリと舐りあげ、また、跡を残す。

「ん…」
その時、初めてココの口から音が漏れたように思う。
「ココさ…?」
痛かったのか?嫌だったのか?
調子に乗りすぎたかと、小松はココから少し身体を浮かせ…
下肢に固いものが当たるのに気付いた。
「え…?うそ、なんで?」
「そりゃ…小松くんがそんな可愛らしい事言えば…反応して当然でしょ?」
これでもずいぶん我慢したんだよ?
理解が難しい。
どこにココが反応したのかいまいちよくわからない小松は、とにかく嫌では無かったのだと安堵した。
「ひょっとして…ちょっと痛いくらいの方が好き…とか?」
「どうだろう?そうかもね、マゾっ気があるのかも知れないね」
痛みには慣れてるからかなぁ、とどこか他人事のように空恐ろしいことをつぶやいたよこの人。
「っていうか、いろいろ鈍いんじゃないですか?」
「小松くんが感じやすすぎるんじゃないの?」
あ、駄目だ、口では勝てないのに。
あえてここで反論しては小松に勝ち目はない。
そう思って口を噤むと、ココはいたずらっ子の眼をして、空いている右腕で小松の首から背筋を辿って動かしだした。
「あ!駄目ですよ!ココさんは動いちゃだめですって!」
「ほんの少し。撫でてるだけだよ、これくらい、ね?」
だって、小松くんじれったすぎるから。
そう言われれば黙るしかない。
焦らす目的はなかったのだが、たしかにゆっくり過ぎたかも。
かといって、小松からこれ以上反論する気は無い。
口で勝てないなら態度で示すまで、と、今度はもう少し大胆に動いてやる、と決意し、体勢を変える。
ゆるく立ち上がったココ自身を太ももで挟む様にしてココの太ももの上に跨ると、べったりと隙間なく胸と胸が合わさる様にくっつけた。
「…ん!」
少し口をとがらせて「今からキスするから顔こっち!」と言う風に眼だけで合図する。
はいはいわかりましたよ、と言わんばかりにわざとらしく溜息をついたココは、さっきの仕返しと言わんばかりに大きく口を開いて小松の口にかぶりついた。
それでも主導権は小松に渡したままにしてくれるらしく、好きなように口内を蹂躙させていた。
ただ、先ほどと違って、ココが積極的に小松に絡んでくる。小松もそれを受け入れて、互いが気持ち良い様に幾度となく角度を変えて深く深く交じりあわせる。
「ふ…っ…ん…」
気持ち良くて、小松の口から嬌声が零れる。
ココもそれが嬉しくて、小松の舌先を軽く噛んだり、吸ったりして追い上げる。
ココの頭を抱き込む様に廻していた腕を少し力を込め引き寄せ、より、肌が密着するように摺り寄せる。
小松自身もゆっくりと立ち上がり、二人の間で挟み込まれ、より力強く立ち上がろうとしていた。
「あ…あ…っ」
下肢に加わる快感がだんだんと強くなり、お互いの唇がはなれ、交わした唾液が糸を引いてプツリと切れた。
より快楽を追おうと小松はココの身体に密着し、胸と胸、腹部と腹部が合わさる様にこすり付ける。
「ココさ…」
潤んだ目でココを見つめ、離れた唇をもう一度合わせようとした時、後ろに違和感を感じた。
背中をさすっていたココの手が、小松の双丘を揉みしだいた後、こっそりと侵入を果たそうとしていた。
「あ…だめ…です、ってッ…!」
「大丈夫…慣らすだけだから…ゆっくり、ね?」
それ以上の発言を拒む様に、ココが小松の唇を奪う。
「──ッ、ンむ…ゥ…!」
今度はココが主導権を握って小松の口内を蹂躙する。
自分からするのではない刺激に翻弄され、ただ、快楽を甘受してしまう。
(だ、め…これじゃ、いつもと変わらないーーーっ!)
何とか意識が流されないように、それだけで持ちこたえると、ぷはぁ!と大きく息をついて、口を離す。
「ココさんっ!駄目ですったら──っ!」
「だって…じゃぁ、小松くんが自分で解すの?」
それでも全然かまわないけど…と、やけににやついた顔で言うのは絶対に気の所為じゃない。
…けど、確かに自分で解すのは…抵抗があった。のは、確かだ。
むしろ、いっそのこと何もせずに…そのまま、受け入れてしまえばいいかと思っていた。
痛みは相当あるだろうが、ゆっくりだったらいけるかなぁ~なんて。
(恥ずかしいより、痛い、の方が、いい…って思ってたの…)
ばれてたのかな?
こっそりココの表情を覗き見ると、「どうせ深く考えてなかったでしょう、バレバレだよ」って言われてるような気が、しなくともない。
それでもうぅ~と唸っていると、
「大丈夫…何も精製してないし、その…慣れるまでは痛みも感じると思うよ?」
と、あまりココとしては推奨できない方法を取ってくれるようだ。
別に小松とてあえて痛みを感じたいわけではないが、それが自然なのだから、あるがままを受け入れたいだけなのである。
しぶしぶだが、了承する。
…正直、助かる。が、あえて口にはしないぞ。

大人しくなった小松を胸の中に抱えなおし、ココは行為を続行させる。
ゆっくりと縁をなぞり、あまり刺激しないように指先を行き来させる。
それだけでも気持ち良くて、小松の口から感じ入った吐息が零れる。
それがココの耳にあたり、ココはゾクリと身震いする。
小松は気づいてなかったが、ココは耳と首筋が弱かった。
なので、先ほどから小松の指先が耳に、首に触れるたびに背筋に這い上がるものを感じていたココだったが、おくびにも出さずに堪えていた。
なんだか小松にばれるのはまずいと言うか、嫌な予感がしたのだ。
ココの予感は当たっている。
多分、小松がココの弱点に気付いていたら、きっと調子に乗って、今後も、何度もそこを攻めたに違いないだろうから。面白がりながら。

どうにも小松は色ごとに興味がない、というと語弊があるだろうが、照れや羞恥があいまって、なかなか本題に入ろうとしない傾向がある。
と、初めて小松を抱いた時に気付いた。
基本的に淡泊なんだろうが、一度溺れてしまえば、かなり流されやすいのもわかった。
なので、あえて勢いで突っ走ってしまう抱き方を続けていた。
ココとて、ゆっくりと小松を抱きたかった。
追いつめて、解いて、高めて、拓かせたかった。
だけど、多分自分以上にウブな小松はすんなりと行為を受け入れるとは思えなかったのだ。
だからこそ強引に事に及んで、まずは身体を慣れさせようと考えていた。
快楽に耐性をつけさせようと目論んでいたのである。
(だけど…嬉しい誤算と言うか…)
思った以上に男前と言うか…
(まさか、小松くんがここまで考えてくれているとは思わなかったな)
そして、全力でココを受け入れようとしてくれているのだと。

じわりと胸が熱くなる。
小松の方から求めてくれた。
この小さな身体で、ココを受け入れるのは勇気と覚悟がいる事だろう。
好きだというだけで、乗り越えられる恐怖じゃないと思う。
だけど小松はあっさりと、気持ちの上でココを受け入れた。
ためらいも葛藤もあっただろうに、それらを覚悟の上で。
(決してボクには出来ない…)
だからこそ魅かれた。この懐の大きな男に。

だったら、だからこそココは小松にすべてを委ねようと思う。
急所をさらけ出す?それくらいなんでもない。
小松になら、何を奪われても構わない。
たとえ望まれなくても、この命さえ投げ出すことをいとわない。
もちろん、小松は命を軽んじる事を許さないだろうけど。
(…だけど、まぁボクのなけなしのプライドで、キミに弱点を教える事はしないけどね)
からかわれるのは本意ではないから。
キミの前ではいつでも格好つけていたんだ。

腕のなかで、小さな快感に身を震わせる可愛い人。
先ほどの威勢はどこへやらで、与えられる刺激に涙をにじませている。
(ああ…もう一度、首に噛みついてくれないかな。キミに命を握られている、なんて感覚、これ以上にない快楽なのに)
自虐的な発想に自嘲しながら、優しく小松の額に口付を落とす。



(あ…ココさんが笑った…)
滲む視界に広がった、大好きな人の笑顔。
もしかしたら、自分の姿態がおかしくて笑ったのかもしれないが、それでも、笑ってくれた事が嬉しくて。
額に触れられた唇がそのまま眼尻にたまった雫を汲み上げる。
(ぷ、そんなの、しょっぱいだけでしょうに)
でも、その行為がただ嬉しい。
ココの首から腕を解くと、ゆっくりと肌を伝って下に、下にもっていく。
たどり着いた先には、充分に硬さと熱をもったもの。
お互いの先走りですでにぬるついていたが、それをすくい取ってゆっくりと塗りこめるように扱いていく。
「ふ、…──ッ…」
自分のと重ねる様に握りこんで、ゆっくりと刺激を与えていく。
ココが一瞬、息を詰めたのがわかった。
感じてくれている。
嬉しい。
自分の手で快楽を与えられているのだと自信を得た小松は、ゆとりが出来たのか、じっくりと眺める。
(…ホント、おっき…)
身体に対して見合った大きさなのだろうが、小松のと比べると、長さも太さも段違いだ。
(…よく、こんなのがボクに入ったなぁ…)
今まで、こんなにじっくりと見たことは無かった。
当然、触ったこともない。
不思議で、思わず両手で形をなぞりたどる。
(形は…そんなに変わんないよね、そりゃそうだろうけど…)
今まで他人のなんてそうそう見比べたことなどない。
職場のスタッフと何度かトイレでかちあったこともあるが、そんな覗き込むようなマナー違反などもってのほかだ。
(トリコさんのは…まぁ結構みたけど…お風呂とか一緒に入ることもあるし…まぁ大きかったなぁ…)
彼は特に隠すこともせず、おおっぴらにしているのでよく目にする。
しかし特別意識して見たこともなかったので、よく思い出せない。

「…ねぇ、何を考えてるの?」
「え?!いや、別にっ!!!その、大きいなと思ってましたっ!」
おおぉ…やばいやばい!まさか情事の最中に他の男の人のを思い浮かべてましたなんて、流石の小松でもまずい事だとわかってる。
ふぅん…?と信じて無さげな声が聞こえるが、そこはスルーして。
(てか、本当にボクの考え、見えてないですよねっ?!)
異常に眼が良いというこの男は、人が発するオーラでもって、大体の感情が読めると言っていた。
でも、それは大まかで、「喜んでいる」とか「悲しんでいる」といった、喜怒哀楽くらいだと言っていた、はずだ。
(違うんですごめんなさい!けっしてトリコさんと比べたとかそんなんじゃないですからっ!)
わかるはずはないと思いつつも心の中で謝罪し、改めてココ自身に手を添える。
「…あの、ココさん…!」
「…何?」
う…なんだかまだいささか不信気な響きの声だ…。
自業自得だが、それでもこれからの事を考えると言っておきたい事がある。
「えと、ですね…その。…だ、出したくなったら、我慢せずに、出してもらいたいんですけど…っっ…!」
「ふぅん…そんなに自分の手クニックに自信あるんだ」
う…多分、今の発音だと、いつもだと絶対に口にしないしょーもないおやじギャグ言った!
「そうではなくてですねっ!その…」
とまどいつつも手を動かしながら、刺激を与えて促していく。
「…基礎体力が、全然違うので──…ボク、つ、ついていけないと思うんです…っ!」
今までの数少ない経験上、ココの気が済むまで付き合うと、必ず体力負けする自信がある。
だからこそ、…先にイってもらって、少しでも体力を消耗させたかった。
「ま…満足してもらいたいし!でも、ココさんが満足するまでボク…多分、付き合えな、いと…」
「ん…いいよ、わかった。じゃぁ、我慢せずに、出せばいいんだね?」
「は、はいっ!!お、お願いしま、す…!」
こちらから申し込んだこととは言え、素直に返事をもらえれば、照れる。
でも、了承は得られたので、改めて真剣にココに対峙する。


先端から滲み出る透明な雫を指で拭い取りながら全体になじませ、くびれた所を何度も上下する。
手の平でも幹全体を包み込み、根元から優しく扱き上げる。
「─…、小松くん、足りない」
「え?」
「刺激が。もっと強くして?」
そういうと、小松の手に片手を重ね、そのまま握りこんで強めに扱くように動かされた。
「ッコ、ココさ─ッ…!」
「もっと強く握っても大丈夫だから…そう、指先も、もっと動かして…うん、上手…」
小松の手を使って、自慰に励むその姿が小松の視界を埋める。
その光景だけで小松自身が今にも果てそうだったが、小松は必死にココを追い上げようと、言われるがままに指先を動かす。
痛くないのだろうかと、小松にだったら強すぎる刺激を竿全体に与えながら、先端の窪みを穿るようにぐりぐりと弄ってみた。
「──ッん…」
小さくくぐもった声が上から聞こえた後、あっさりとココは解き放った。
勢いよく出された白濁した液は小松の手とココの手を汚し、小松の胸まで飛び散った。
はぁ…、と吐息を零したココは、しばし快感に感じ入るように瞼を閉じている。

(…ココさんがイくとこ…初めて見た…、けど…すごい…)
なんていうか…、艶っぽい…
普段から感情を表の出すのを良しとしないのか、微笑を仮面のように張り付けているこの麗人の、本来の表情。
パーツも配置も完璧で、「優男」と評されるこの男が、小松の手を借りて、高められ、感じて。
目元と頬がうっすら朱い。
息も多少だが乱れている。
形の良い唇を少し開き、静かに呼吸を整えている。
閉じられた瞳を縁取る睫毛がやけに扇情的で。

近づいてもっと良く見ようと、手をココの胸に置こうとして──
(あ、手、べたべた…)
ココのもので汚れたのだが、流石にこの手でココに触れるのは申し訳ないかな、と、手を拭おうと視線を彷徨わせたが、ティッシュもタオルも手近に無かった。
ので、小松はその手を口に含もうと持ち上げた。
「わぁ!待って待って待って!小松くん何するのッ?!」
「え?いや、舐めようかな──」と思ったんですけど
「ダメ!小松くんはそんな事しちゃダメっ!」
む。なんでですか。
ココさんなんて、それどころか、口で直接ボクをイかせたりした事あったじゃないですか。しかもソレ、飲んだじゃないですか。
小松が抗議をあげるまえに、ココはさっさとベッドの下に脱ぎ落した自分のシャツを拾って、小松の手と胸に飛び散った自身のモノを拭き取った。
眼で抗議を訴えている小松に「それはまた今度、ね」と苦笑を零すココ。
むぅ。今、やりたかったのに、とふくれっ面をしたら、そのほっぺをつつかれた。
「今、そんな事されたら、ボクが暴走しちゃうよ?」
「?なんでですか?」
「…あのね…ボクの体液を口にするなんて──…」
説明しようとしたココは、そこで口を噤んだ。
きっと無謀だ、と続けようとしたに違いない。
だが、ココは穏やかながらも困った眼をして、何も言わなかった。
小松はわざと「ぶぅ~」と言ったが、それ以外は言葉にしなかった。



たしかにココは、小松を咎めようとしたのだが、それ以上に「嬉しいからなんだよ」と、上手く伝える事が出来そうになかったから。

体液が毒──

今は随分とコントロールが上手くなり、無毒を心得ているココだが、それでも、絶対の自信はない。
なのにこの腕の中にいる想い人は、無償と、絶対の信頼でココの傍にいる。(単に警戒心が抜け落ちているのかとも思うが)
いつ毒化するのか冷や冷やしているというココに、笑って「大丈夫ですよぉ」と。
それだけで、どれだけココが救われているのか、小松は気づかない。気付けない。

「男同志」という壁だけでなく「毒」というリスクまで請け負ってくれた。
そして恥じらいはあるものの、身体を差し出してくれた。
それだけで十分だというのに、今や小松からもココを求め、好意を惜しげもなく与えてくれる。

(本当にもう、これ以上ないくらい幸せなのに…キミはわからないだろうな)
満たされる幸福感。
目に見えるゲージがあったなら良かったのに。
ならきっと、君に伝えられただろうに。
なのに…君はあっさりとそのゲージを突き破るくらいの幸福をこれでもかと与えてくれる。
なのになのに!あまつさえ小松は、…大切な、料理人としてかけがえのない口、舌に、ココを受け入れ、味わおうとする行為を迷いなくしようとした。
(…想像しただけで何度もイったのに…実際にそんな事されたら…ねぇ)
暴走ぐらいではすまないかもしれない。

そこまで思案して、小松がぶすくれて所在無げに俯いているのを視界にいれて我に帰った。
ほんとに、なんて愛しくて可愛いんだろうか。
小松の旋毛にキスを落とすと、小松は不機嫌な顔のままココと視線を合わせた。
「で?次はどうしたらいいのかな?」
暗に主導権は小松のままなんだから頼りにしてるよ、的な発言をすると、小松はそうだった!と言わんばかりに顔を引き締めた。


「…まだ、全然元気ですね…」
小松は自分の太ももの間で衰えることもなく屹立しているココに視線を落とすと、照れながらも指で触れた。
「そりゃね。そんな恰好で可愛く自分の上に好きな人が乗ってるのに、萎えるなんてありえないよ」
一度達したくらいで、と、しれっと微笑み返すと、さらに照れながら小松は「そ、そうですか」とこぼした。
「あ、あの、ココさん…まだ、動かないでくださいね…?」
そう言った後、小松はココの肩に両腕を置いて支点にし、膝立ちで身体を持ち上げるとココにしがみついた。
そして今からする行為を想像して、ゴクリと唾を飲み込んで、スー、ハー、と呼吸をする。
「…無理はしないでね?」
「…ん、だ、だいじょうぶ、です」多分、と首にしがみつきながら、息を整える。
ぴたり、とココの先端を、自分の秘部にあたるように位置を調整して、ゆっくりと身体を沈めていった。
「──ッ、…んぅ…──ッ…」
ゆっくり、ゆっくりと、ココを飲み込んでいく。
ココもじっと耐えていた。
小さく閉じていた入口は、ココの形に添うように広がり、じわりじわりと奥へ誘う。



小松がココを促し、一度目の射精に至る間、ココはずっと片手で小松を解していた。
小松が何も言わないのをいいことに、始めは指一本で浅いところを丁寧に愛撫し、緩んだところでもう一本、と数を増やし、それを繰り返し繰り返し、三本が無理なく入るまで蹂躙していた。
はじめに小松にくぎを刺されたから、指先からは特に何も分泌していない。ただ、潤滑剤代わりに無色透明な液体をにじませてはいたが。
…血小板をメインに精製したので、たとえ傷つけたとしても、これなら大丈夫だろうし、小松も文句は言わないだろう。

そういった下準備があったから、今、小松は大きな違和感なく、ココを飲み込んでいく。
異物感、圧迫感は否めないだろうがひどい苦痛はないらしく、それでもその小躯に受け入れるには苦しそうで。
時々息を詰め、額に汗を浮かべ、体重に任せて身体を沈める。
「…手伝おうか?」
小松の腰に手を当てがって尋ねるが、無言で首を振って拒否られる。
そしてそのまま時間をかけて…ようやく、小松の体内にほとんどが受け入れられた。
「っはぁ、は…ッ…は…」
そのままの体勢で小松は呼吸を浅く繰り返すと、息が整った頃合いで「入りました」とニコリと笑って報告をした。
「うん…小松くんのなか…入ってる。すごく、気持ちいいよ」
素直に感想を告げる。
体勢的にココのすべてが小松の胎内に埋め込まれたわけではないが、ほぼ根元まで入り込み、その熱さで眩暈がしそうだった。
小松も満足そうに微笑み返すと、キスを強請るように顔をあげたので、ココも応えるように顔を落とし、唇を重ねた。
そのまま深く重ねながら、貪り続けていると、息継ぎの合間に小松がココの手を取り、促してきた。
「…ボクの…身体、触ってくださ…」
促されるままに、まずは頬に手を添えると、頬擦りするように頭を寄せられ、甘噛みされる。
ようやく触れる許可を得られたので、思う存分肌を堪能しようとそのまま首筋をたどり、肩、胸とゆっくりと撫ぜていく。
腕の内側や、鎖骨の上、皮膚が薄い所に触れる度、小松の口から息を呑む音や嬌声が漏れ、そして中が収縮し、緩くココを締め上げる。
その刺激を楽しみたくて、ココはより、小松の感じる場所を探していく。
ココの指が小松の胸の小さな飾りに辿りつくと、初めは小さな動きで、そしてだんだん大胆に、痛みすれすれの刺激を与えていく。
声をかみ殺してその刺激に耐えている小松だが、身体は素直で。
「そ、こばっか…り、や…」
じわりと滲んだ涙が小松の眼を縁取っていたが、それもココを煽る材料にしかならず。
なおより深く埋めたくて、小松の尻臀をガシリと掴み動かそうとしたら、抑止の声が上がった。
「だ、だめですっ…、動かしちゃ、だめ…」
震える声で、それでもはっきりと。
小松に何か意図があるだろうか、下半身を動かすのは駄目だという。
残念に思いながらも、そのままやわやわと揉みしだくにとどめた。
小松は安堵したのか、ほぅ、と小さく息をつきながら、与えらえる刺激を何一つ零さぬように眼を閉じて甘受する。
ココの手はそのまま小松の肌を滑るように全身を撫で進み、小松の内腿で手を止めた。
小松自身がふるふると立ち上げり、しとどに雫をこぼしている。
際限なくあふれ出る雫をすくい取り、足の付け根から膝頭の方へ塗り込む様に滑らす。
時に、二人が繋がっている場所へいたずらするように指をのばしたら、激しく小松の身体が跳ね、締め上げた。
その反応が楽しくて何度も繰り返していると、「あっ、あ…」と小松の口から小さな嬌声がひっきりなしにもれだした。
小松から、より体重をかけてココを飲み込む様に何度か強く腰を動かされ、そのたびに内に飲み込まれたココもより大きさを増した。


(あ、…ココさ…また、おっきくな…)
自分の体内で育つココの塊が、ココが気持ちいいんだと証明してくれていて、小松はこれ以上なく嬉しくなる。

ココが触れるだけで小松は嬉しい。
それを、わかってほしかった。
こういった行為でなくても、ただ、手を重ねるだけでも。
でもココは信じてくれなかった。

小松だって、ココがどれほど毒に対するコンプレックスを持っているか、わかってるつもりだった。
あくまでも「つもり」だけど、本人じゃない限り、それはわからない。
他人にとってどうでもいいことが、本人にとっては重大な悩みなのは誰だってそうだろう。
だがまぁ、ココの場合は特殊なので、より重大な悩みだとは思う。
だけど小松はあえてそれを重要視しなかった。
よくあるコンプレックスにとどめたかった。
「なんでもないことですよ」というのはさすがに憚られる。
軽んじてるわけでもない。
でも、だからこそ、今までココを悩ませてきた最大の悩みを、小松はどうにかしたかった。
それ以上に、それを含めて、ココを好きになったから。
『毒』もココの一部だ。否定はしない。したくない。
だったら受け入れるだけなのだ。

だから、そんなココを「好き」な自分をわかってほしかった。
そして、どれだけココを求め、欲しているか教えたかった。

ココを受け入れ、自分が、自分の身体がどれほど歓喜で打ち震えるか感じてほしかった。
ココが自分の肌に触れる、それだけで小松は吐精しそうなほど感じている。
それを我慢して、ココを招き入れ、自分がどれほど気持ちいいのか体感してもらいたかった。
刺激を与えられれば、気持ち良さに全身が震える。
収縮を繰り返し、「もっと」とあられもなく本能で求めている。
(ねぇ、わかりますか?ボクは、貴方が思う以上に、貴方を欲しているんですよ?)
言葉で通じないのなら、身体で伝えるまで。
ココが動くたびに反応を返す身体。
単なる生理的な反応なんかじゃないんですよ?
好意が伴ってないと、とてもじゃないけど、受け入れることはないんですよ?
わかってますか?
何度か行為を繰り返し、苦痛は少なくなったものの、まだ開発はされていない後腔。
だけど、ココを受け入れていると思うだけで、気持ちいいと思うのも事実で。


ココの両手が小松の身体を這い回る。
もはや、ココが触ってない箇所などないだろう。
小松はココが触れるたびに、内部の収縮を繰り返していた。
限界が近い。
追いつめられ、全身が戦慄く。
それをココも気づいたようで。
今まで触れられていなかった小松自身に手をあてがわれた。
それだけで小松の身体は大きくしなる。
「っ─…、─は、…ァ、ア、ア、─…!」
ココの動きはひどく緩慢で。
だけどそれで十分だった。
小松の内はココを飲み込んだまま、より大きく引き攣れ、キュウゥ、と力いっぱい締め上げた。
自分で加減出来ない収縮でココを捩じ上げている。きっと、それは快楽ではなく苦痛として受け止められているだろう。
だけど、これが薬などに頼らない自然な交わりの結果なら。
ココにも苦痛を感じて欲しかった。

高められた快感で、頭の中にチカチカと光が瞬く。
感極まって限界を迎え、その勢いのまま熱を解き放つと、腰、太ももがビクンビクンと大きく動き、ガクガクと膝が震えた。
しばし感じるままでいると、まだも収縮が収まらない内壁が、絞り上げる様にココを求めうねっていた。
キュウキュウとココを追いつめる動きのそれに、ココは眉根に皺を刻んだかと思うと小さく震えた後、こぷり、と小松の体内に二度目の精を放った。
熱いものが内部にぶちまけられ、それすらも刺激として受け取った小松は、まだ抑える事の出来なかった身体がもう一度強く、絞り上げる様に脈動したのをどこか他人事のように感じた。


全てを吐き出した二人は、ただただ呼吸を荒くする。
小松の身体はまだ時折ビクリ、ビクリと跳ねているが、ココは感じ入るように小松を腕の中に閉じ込めた。
はぁ、ふぅ、と静かな部屋に響いていた呼吸音はやがて小さくなり、小松はぐったりとした四肢をココに預ける様にしていたが、
「気持ち良かったですか?」と不安げにココを見上げた。
ココは無言で小松を抱きしめると、汗の滲む額にチュ、と音を立ててキスをした。
小松は安心して、お互いにまだ熱い身体を、より重ねるように腕を回して抱きしめて「良かった」と小さくつぶやいた。


(ココさんがそんなに心配しなくても、今みたいに、ゆっくり身体を重ねるだけでも、充分に気持ちいい、ってわかってもらえたかな?)
激しい刺激がなくても、ちゃんとボクは感じる事が出来るし、ココさんにも気持ち良くなってもらえるんだよ、と。
…だから、これからはそんなに激しく求めないで貰いたいなぁ、と無言の訴え。
…通じ、ましたよ、ね?
ココの大きな体に回りきらない腕を回しながら。


「小松くん、ありがとう」
とうに平静に戻っていたココが満面の笑みを湛えて、小松に優しく語りかける。
小松もそれに負けじと、精いっぱいの笑顔を返す。
「小松くん、疲れたみたいだから…ここからはボクが好きにしていい?」
小松は笑顔のまま動けなかった。
「…え?」
「うん、小松くん、すごく頑張ってくれたから。ここからはボクが頑張ろうと思って」
え?アレ?
言うが早いか、ココは軽く小松に口付を何度も落とした後、小松の内に埋め込まれた一向に萎えないペニスはそのままに、体勢を変えて動こうとしていた。
「え?」
もう一度つぶやく小松をよそに、いそいそと小松をベッドに組み伏せる。
「大丈夫、無茶はしないから。もう少しだけ、付き合ってね」
「え?」
さらにもう一度つぶやいたが、その後に続けようとした抗議の言葉は、深い深い口付とともに飲み込まれた。



□■□

「ボクねぇ…一度でいいから、ピロートークってのをやってみたかったんですよ…」
「…へぇ…どうぞ?」

いつもなら、意識の途絶えた小松はいつの間にか身体を綺麗にされていて、目が覚めたら隣には誰もいなくて。
小松が起きた気配を察してか「ご飯、食べられる?」と用意された朝食(昼食か?)を持ってきて食べさせられるという経験しかなかったのだ。

今回は、先に少しでもココの体力を削ったのが功を奏したのか、小松の意識はかろうじてある。
しかし、かろうじて、である。
ココの腕の中で、もはや指先一つ動かすのもだるい状況だが。

疲労と睡魔に襲われ、微睡に片足つっこんだうえでの発言であった。
目を覚ました時に隣に誰もいない不安だとか、ご飯はボクが作ったのを食べてもらいたいだとか、いままで胸の内に抱えていた不満を訴えたかったが、まぁ、それは今度でいいか、ともにょもにょと口ごもる。
ただ、こうやって、ココの腕の中にいる現実が嬉しくて。
分け与えられる体温が心地よくて。
もぞり、と少しだけ身体を動かすと、寒いと思われたのか、肌蹴た肩に毛布を引っ張り上げてやんわりと抱え直された。
シーツがさらさらと気持ちいい。
性交渉の後の、お互いの欲望が吐き出され汚されたシーツとは思えなかった。
小松の意識が途切れた隙に替えられたのだろう。身体もさっぱりしている。風呂には入れられてなかったようだが、清潔なタオルで拭かれたようだ。

そんな事をつらつら考えていたら、汗で湿気た髪に指を絡まされ、先を促された。
小松自身、何が言いたいのかわからぬまま、頭に浮かんだ言葉をただ口にしただけだった。
「ピロートーク…ピロー…」
ってなんだっけ?
「昔…ですけど、どうしても、気になって…」
「うん?」
「ダメだとわかってたんですが…中を開けてみたんですよ…」
「うん??」
「中には…なんていうか、素材はわからないんですけど…ストローを、細かく切ったみたい、な、ものが一杯入ってて…」
「──……」
「数えて…みようと思ったんです…けど、千を超えたくらいか、ら、どうでもいっか…て、思っちゃって…」
結局、いくつあったのかなぁ…、そのまま戻して、閉じちゃったんですけど、ね…
と、そこまで言って、小松は穏やかな寝息とともに眠りに落ちていた。
「小松くん…?」
スースーと規則正しい寝息が聞こえる。
完全に寝たようだ。

「───プーッ!っくっくっく…あはは!小松くん…!」
まさか、ここで枕の話をされるとは思ってもいなかった。
捩れる腹を止める事も出来ず、ただ久々に、心底可笑しくて笑い声をあげる。
「ほんと、キミって…──」
ようやく笑いが収まると、ココはもう一度、腕の中の小松を抱きしめた。
少々苦しかったのか、ううん、と身じろいで小松は少しココを押し返した。
その動作すら愛おしくて。
「ふ…、ちなみに、この枕の素材は羽毛だよ?」
寝ている小松の耳元で、そっと囁き、ココも眠りに落ちようと瞼を閉じた───



大切な大切な宝物。
この奇跡に、信じてはいない神に感謝を込めながら。




おまけ
□■□



「ココの匂いがする」
「──ッ!…そりゃ、昨日一日中一緒に居ましたからねッ!もうーー!ボク達は恋人同志なんですから、いいでしょ!別にッ!」
トリコの発言に顔を真っ赤にして抗議する小松は「さんざん邪魔したくせに!」とぷりぷり怒っている。

トリコと小松が落ち合って、これからすわハントに行こうとしていた所だが、息せき切って現れた小松への第一声が先ほどのそれである。
そう、小松とココが付き合う──と宣誓され、なによりも邪魔をしたのはトリコとサニーであった。
本来なら、誰よりも応援してやりたりところであったが、自分と近しい間柄の二人が恋仲になるということに、照れとやっかみと心配がないまぜで、冗談半分本気半分以上でからかいながらも邪魔をした。
(サニーはほぼ本気・全力で反対していたが)
きっと誰よりも不安を抱えていたのは当の本人二人だとわかっていた。
年齢、性別、職業、地位、体質…どれもこれもが不安材料でしかない。
だけど、それらを乗り越えてなお、共に居たいのだと、二人。
正直、トリコは嫉妬した。どちらにかはわからない。わかりたくない。
けど、嬉しいと思ったのも本当で。

昔から付き合いのあるココ。
知り合ったのは最近だが、コンビにもなり、浅からず親交のある小松。
二人ともトリコにとってかけがえのない人物。
まさか二人が恋仲になるとは、二人の仲を取り持ったトリコにも考えつかない衝撃の出来事だったが、本当に、嬉しかったのだ。
だから、邪魔をして、それで諦めるならそれまでとも思ったし、逆に、こいつらの場合は逆境の方が燃えるんじゃね?とも思ったので、生き生きと邪魔をした。
そして今、目の前の小男は、知己の匂いを身にまとってそこにいる。


二人の間に肉体関係があることを、匂いに頼るまでもなくトリコはわかった。
(まぁ、明らかに小松の態度が平静とは違ったからだが)
今回ばかりではない。
小松は気づいていないようだが、初めてココに抱かれた日も、トリコは気づいていた。
それにとやかく言う気もないし、嫌悪したわけでもない。

ただ──
(最初ん時は、ひどかったけどな…)
小松から発せられる「ココ」の匂い。
小松を傷つけない為の処置ではあるだろうが、様々な「毒」の匂いがまとわりついていた。
おおよそを匂いで判別できるトリコは、少なからす辟易した。
弛緩や鎮痛、小松の身体に負担にならないような効果のある成分の臭い。
快楽を促す効果のあるものも使われたのだろう。
…男同士でも、普通はそんなもの使わなくてもよい。
だが、ココは己の毒を十分に活かし、小松を抱いたのがわかった。
きっと、小松から望んではいないだろう。ココのコンプレックスに気付いていないはずがないから。

一番鼻についたのは「忌避剤」の匂いだ。
これからトリコとハントに行く、それを承知の上で虫除けやら獣除けやらの成分たっぷりのものを小松にまとわりつかせていた。
これは、小松自身も、トリコの事も信用していないのだ、と受け止められる行為だ。
ココにとっては、ただ心配で、安全性を高める為に施した、好意に過ぎない。
だが、小松とトリコは危険を承知の上、危険な地区に足を踏み入れるのだ。
ココも一緒にハントに同行するなら別だが、ココがその場にいないのに、ココに守られている…なんて、小松が喜んで受け入れるだろうか。
小さな子供ではない。自分の決意と覚悟をもって、危険な場所に出かけるのだ。
そしてトリコはコンビとして、小松を守る義務と権利がある。
それを疑われているような、信頼をしていない、といったココの行為が腹立たしかった。
トリコだけでなく、小松の覚悟さえ踏みにじる行為。
だからあえて小松には言わなかった。
「お前はいつもココに守られている」と。
小松に言えば、怒り、そして抗議してやめさせただろう。
だが、いくら口でいっても、ココの考えが変わらなければ意味がないのだ。
ココ自身が、他人を信用して、納得しなければ。


──それが、今日、小松からは「ココ」の匂いしかしないのだ。
なんの毒の臭いもしなくて、ただ、ココの体臭だけ。
これが、どれほどの進歩なのか、トリコは万感の思いで小松を見つめる。

ココの過去は明るくない。
とてもじゃないが、他人を信用するなんて天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていた。
それが、小松に好意をよせ、自ら歩み寄り、「自分には一生ありえない事だ」といつかこぼした「恋人」として望んだのだ。
いつか、だれかきっと、ココを受け入れてくれる奴が現れればいい、と自分にとっては兄に等しい人物を心配していたトリコにとって、小松は僥倖だった。
そして、小松もココを望み、受け入れた。


「ほんっと…お前、すげーよ」
「…なんのことですか?」
またからかおうとしてますか?
トリコの前を歩く小松は、これ以上からかわれまい、とやや早足で進んでる。(トリコにとってはちょうどいい速さだったのだが)
だから、トリコの表情に気付かない。
お前で良かった、とトリコが慈愛に満ちた瞳で小松の背を眺めているのに。


「よし、んじゃ、腹も減ったし、さくさくハントしてさっさと帰るかっ!」
「あのね…今出発した所でしょ。なんでもうお腹すいてるんですか…てか、もう帰りの話しないでくださいよぉ!」
ボクこれから行く所、すっごい楽しみにしてるんですから!なんてったって、そこにある食材って──
と、まだ目にもしていな食材を思い浮かべ、大きな瞳を見開いてきらきらさせて。

きっと今回のハントも無事終えて、大量の食材を手に帰宅して、トリコの胃袋を満足させてくれるのだろう。
もちろん、その場にはココもいて、二人の無事な姿に安堵しながら、ハント中の出来事を大きな声で大げさに話す小松をほんの少しの毒舌でたしなめて、穏やかな笑みを浮かべて聞いてくれるのだろう。


小松という小さくて偉大な料理人に出会えた事に、感謝を込めて。
「サンキュな」と小さく呟くトリコに、「?」を頭に浮かべながらも微笑み返す小松は、さぁ行きましょうと、トリコの大きな手をとって先を促した。
まだ見ぬ未知の食材を求めて───







・描き終わって読み直して…自分で「くどい」と思った。いや、文章の使いまわし方とか、無駄に長いとか。(反省)
そしてとくにエロくもなってないのが一番の反省点。おっかしーなぁ… 


・ココさんには我を忘れて小松を貪っててほしい願望。
・この後、回数を重ねてじっくり開発してほしいですね。



※閲覧ありがとうございました。