『噛ミ痕』2013/8/19





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「ちょっともう…いい加減にしてくださいよ」
睡眠妨害ですよ、と身体を捩って避けてはみるが、そんな抗議は意にも解せず、「寝てればいーじゃん」と悪戯に肌をまさぐる不埒な動き。

夜も更け、さぁ寝るぞと布団に入り電気を消した途端、まるで今からが活動時間であると言わんばかりに、触れるか触れてないかの感覚で刺激を与えてくるのである。

このところ毎夜だ。

最初の頃は何だ何だと思いながらもされるがままに放置していたが、こうも続くと不快でしかない。

こしょこしょとした感覚が肩に触れた。
「やめて下さいよっ!」
強めの動作でとっさに振りはらったが、この暗がりでも見えているのかはたまた気配を察したか、難なくかわされた。
勢いづいたまま掌は自分の肩にあたり、痛い。
「…もう〜っ!」
「いーだろ、別に」
「良くない!」
「これ以上の事は求めてねーじゃん」
「うっとおしいんですよ!」
不機嫌をあからさまにして言い放ってもどこ吹く風。
意に介することなく、嬉々として行為を進めている。
そしてここだ!という場所で、噛みついてくる。
わざとに決まっているが、皮膚の薄い敏感な部分、二の腕の内側だとか、へそ周りだとか、内腿だとか。
あ、と思った一瞬後には、小さな淡いピンクのポッチが散らされているのだ。

「やめてって言ってるのにぃ〜…!」
「見えない所にしてるだろ」
「そういう問題じゃないんですよ!あーもう!これ、痒くなるんですからね!」
足の甲にされた時、一歩踏み出すだけで刺激となって猛烈な痒みをもよおした。
普段から立ち仕事の為、それが常にである。靴の上から踏んだりしたが、それで治まるはずもなく。
それ以外の場所も衣擦れするたび痛痒い。

「いつでもオレの存在を思い出せていいだろ?」
「仕事の邪魔でしかありませんよ!」
なんだよ冷たい奴だよなぁとブツブツ文句言ってる気がするが、文句を言いたいのはこちらである。
実際文句を言ったところで一切こたえていないようだが。

「もぉーー…寝かせてくださいよ、明日も早いんですから…」
「だから勝手に寝ればいいだろ」
オレは好きにしてるし、とこちらの都合などお構いなしの発言をかます始末。

「…潰してやる」
「お!上等!」
やれるもんならやってみな〜、と、物騒な売り言葉はいやに楽しげに買われたようだ。
とりあえず明日、明るくなってから…必ず痛い目見せてやる!
と決意を固め、自身に襲いかかる睡魔に逆らうことなく目蓋を閉じ合わせた。
明日…明日になったら覚えてろよと決意あらたに。









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何を擬人化したのかといいますと…
蚤ですよ。蚤のヤローですよ、ええ。

朝起きれば新しい噛み痕ができてるんですよね…
猛烈にかゆい!
しかも本当にきわどい所を噛みやがってまぁ…

どうやら猫が蚤を拾ってきて繁殖させては野放しにしてくれているようですよ。

ここ数年は見ていなかったのに、今年は当たり年なのか…


悔しいのでトリコマで無理やり萌えてやろうかと思ったんですが…
蚤にはむかつくばかりですよ!

見つけては捻り潰してやってますがね、ええ!








※閲覧ありがとうございました。