『Calling 4』トリコマ R18 (2014/1/22)

・完結です。



どこか遠くで獣の哭く声がする。
風が窓を叩きカタカタと震わせる。
月には叢雲がかかり、ぼんやりとした光で夜空を照らす。

だが二人は気付かない。
お互いの姿しか目に映さず、お互いの息遣いしか耳にしなかったから。





室内に響くのはせわしなく乱れた呼吸音。
この場には似つかわしくない卑猥な水音。

執拗に与えらえる口付に小松は涙を滲ませながらも応え続ける。
お互いに感覚は麻痺し、混ざり合って溶け合っているかのような錯覚。
どちらのものかわからない唾液を飲み下し、零しても離れることはない。
「ん…、ん──、ふ─…、ふ」
苦しげに洩れる小松の吐息を一つも漏らさぬようにトリコは貪りつく。

先に音を上げたのは小松。
軽く握った拳でトリコの胸を叩いた。
「っはぁ!、は、はぁ…─」
解放された小松は上がった息を整えようと深呼吸を繰り返す。
トリコはなおも名残惜しそうに、小松の顎に伝った唾液を舐めとると、頬に、鼻にキスをする。
「な、がいんです、ってば…」
「だって気持ちいーだろ」
お前も好きだろ、キス。と言うと小松は聞き取れぬ声でごにゃりと何かを呟いた。
「こっちもそろそろ…」
大丈夫そうだな、と埋め込んでいた指をゆっくりと差し引いた。
くちづけを交わしてる間もトリコは指を増やし内部を蹂躙し続けていた。
その効果あってか入り口は程よく解され、オイルもたっぷりと塗りこまれて挿入するには問題ない様にみえる。
小松を窺い見ると薄く閉じられた眼はうっとりともぼんやりともとれる目つきでただ黙って息を整えていた。
「小松…」
大丈夫か、と問いかける代わりに鼻をすりよせると、大丈夫と答える代わりに鼻をすりよせられた。
「…っし、ちゃんと掴まってろよ」
と言うと小松の手をとって自分の首に回させた。
片手で小松の身体を支えて持ち上げ、位置を入れ替える。
ぽふり、とシーツの上に横たえさせ腰の下にクッションをあてがった。
「息、つめるなよ」
それだけ言うと、先端を窪みに当て、ゆっくりとではあるが一息に埋め込んだ。
「───ッッ…!」
慣れない圧迫感と異物感に顔をしかめながらも小松はトリコを受け入れた。
(─、き、もち、いー…)
ぬるりとした腸壁にぴたりと包み込まれ、異物を排出しようとの蠕動がトリコに快楽をもたらす。
(は、オレのが先にイっちまいそ──…)
小松の頭の横に両肘を置く姿勢で、しばし快楽を逃がそうと眼を閉じて耐えていた。
額に滲んだ汗が頬を伝うのがわかる。
「…痛くねぇか」
ふるふると小さくかぶりを振って答えた小松はじっとトリコを見ていた。
「どした」
「…いえ、」
こいつの事だから痛みを我慢しているのかと思ったがそうではなさそうなのでひとまずほっとする。
今はそうでもなさそうだが、最初の頃はこちらの不慣れもあってか、相当に痛かったと後でぼやかれた。
後でいうくらいならその時言えよ、と言ったら「いいんです」と言われた。
何がいいのかわからないが、問い質しても口を割らなかった。
こちらとしては苦痛は与えたくないのでその場で対処したいのだが…
いかんせんコイツも相当頑固で意固地で我慢強いもんだから、素直になればいい所を何故か一歩も引かない所がある。
小松なりの考えがあるのだろうがそれをわかってやれない自分がまたもどかしくて。
大胆かと思えば消極的な部分も持ちあわせるこの男は、付き合いが長くなる程底が読めない。
そこが楽しくもあり悩みの種でもあるのだが、それでこそ小松なんだろうけどなと納得するしかない。
惚れた弱みというやつだ。
「なんかあったら言えよ」
「はい」
真意はわかっていないだろうがそう答えた小松はしっかりとした返事を返してきた。
「トリコさん」
「なんだ?」
「大好き」
──ここでそれを言うのかお前は。
「オレも好きだよ、あーほんとにもうお前は」
鎮めたはずの高鳴りが再び鳴り響く。
トリコは少し腰を揺らめかして小松を揺さぶる。
「んっ、」
小さく洩れる素直な声に気をよくする。
「そういや、こっちまだだったな」
言うが早いかトリコは小松の両胸にあるツンとした頂を抑え込む。
「あ、」あ、あ、とトリコが捏ねる動きに合わせて声が零れる。
寒さ故か先ほどまでの快感を享受してか、すでに芯をもって固くなっていた。
擦ったり押しつぶしたり気の向くままに弄ってやると、小松の中心もふるふると震えだす。
「こっちもすごいことになってんな」
先端からはたらたらと雫がこぼれ続けている。
腿を伝いシーツにはいくつもの染みが作られ滲み込んでいく。
ペニスには触れぬように雫をすくいあげ脚の付け根のきわどい部分を撫でさする。
そのまま指をおろしていき、やんわりとした双球を軽く握ってやると顕著な反応がかえされる。
一瞬身体が跳ねたがそれ以上動かぬようにぎゅ、っとシーツを握りしめながらも耐えている。
トリコは片手で胸を弄りながらも、もう片方できわどい部分をさすり続けた。
「な、ここ、繋がってるとこ…ここまで垂れてきてる」
二人が結合している部位にまで雫が伝いおり、てらりとした鈍い光を発していた。
「こんなんだったら、オイル全部使わなくても良かったかもな」
くつくつと意地の悪い笑みをこぼしながら、トリコは結合部分に指を這わせる。
小松は何か言いたそうだったが、与えられる刺激から思わず出る声を押し殺すために口を閉じていたので、結局は何も言えなかった。

じわりじわりと決定打のない刺激が小松を翻弄し、限界近くまで高めていたがトリコは何食わぬ顔で愛撫を続ける。
耐え切れなくなったのか小松は身を起こすと自分のものに手を伸ばして解放を促そうとした。
「だーめ」
すんでの所でその手を絡め取り、ひとまとめにして小松の頭上で縫いとめる。
「やだ、なんで…っ」
「オレの好きにさせてくれるっていっただろ」
我慢もその内だ、と諭すように告げる。
「トリコさ、ん、お願…ッ」
涙を滲ませて懇願するその顔にゾクリとしたものがトリコの中を駆けあがる。
「…、もうちっとだけ、な」
あまりに我慢させるのも、それはそれで楽しそうだが気が引けた。
それはまたの機会にするとして…
トリコ自身も動きたくて我慢ならなかった。
必死に冷静を装ってはいたが、その実、がむしゃらに求めたくて仕方なかった。
(いや、オレこそここで我慢だ、耐えろオレ)
自分を励まし、気合を入れ直す。

小松の上にかがみこむ様に背を曲げ、囲うように両腕を回した。
「顔、こっち」
促して顔を上げさせてくちづけを交わす。
そうしながらトリコはゆっくりと腰を引いた。
「──ッ、─、ッー」
小松が上げる嬌声はトリコに飲み込まれる。
深く深く舌を差し込んでは咽喉の奥を犯す。
同じように深く腰をすすめ砲身を埋め込んでいく。
ゆっくりとした動作で、同じように腰と舌を蠢かす───
「─ッは!あ、あ、あ、あ」
苦しくて、トリコの口から逃れた小松は動きと同じに嬌声を漏らす。
トリコが突けば同じく小松の口からも艶めいた声が。
トリコが引けば逃さぬように蠢いては引き留めて。
「小松、小松、小松───…」
ふっ、ふ、とトリコも息を吐きだし、快楽を追う。

段々と水音が激しさをまし、ぐちゅりぐちゅりと隠微な音を奏でる。
「はぁあ、あ、は、はん、は──」
小松の内壁が収縮されトリコを圧する。
身体が小刻みに震えだし、限界を迎え解放を求めた、その時。
トリコは動きを止めた。
「な、んでぇ──っ…!?」
あと少しで最高の快楽を得られたはずなのに、一歩手前でブレーキをかけられた。
「、リコさ…んっ──」
どうして、と小松は悲壮感あらわにトリコにつめよる。
小松が先ほどしたのと同じように、喉元に歯をあて、首筋を強く吸い上げた。
「んんぅ、ん、は、──…」
は、は、と獣のように息をあげながら、小松はじれったくてトリコの首にすがりつく。
トリコはゆっくりと動作を再開したが、小松の望むものは与えなかった。
長いストロークを繰り返し、小松の善いところをかすめては引くことを繰り返す。
そうして、さらに小松を追い詰めていく。
小松は我慢できなくて、恥ずかしさを我慢して自ら腰を押し付けた。
トリコの口角が上がったのを感覚で知るが、それでも止められなくてなお擦り付ける様に動かす。
それでもトリコは、それを逃がすように腰を動かすだけだった。
「トリコさん、トリコさん、トリコさ、ぁん──…」
ここまで来て意地悪はやめてほしい。
いつもなら求めれば応えてくれたトリコだったのに、今はするりと躱されて欲しいものを与えてくれない。
小松の眼から大粒の涙がこぼれる。
トリコはそれを吸いあげ、届く範囲の所にたくさんのキスをする。
「小松」
呟かれた言葉はとても優しげな音程で。
もう少しな、と、今の小松には酷な事を言う。
「やだぁ…、トリコさ、ね、もう」
いかせてほしい。
切に願うがそれはかなえられない。


いつまで続くのかわからない快楽の波。
小松の口からはトリコが動くたびに反動で声が出ていた。
トリコは小松をじっくりと観察し、イく直前になると動きを止めてはまた再開、を延々と繰り返した。
考えるのも億劫になった小松はただただ与えられる衝動に身を任せ、力なく揺れ続けるだけだった。

(─…無理、かな。コイツの体力が尽きる方が早そうだ)
トリコがそう思った時、変化が訪れた。
「───ッあ!っっツ──!!!」
一際大きな艶めいた声。
ビクン、と大きく身体が跳ねる。
「あ…な、に?や…なにコレ…」
小松は自分の身体の変化に戸惑い、こわごわとトリコに手を伸ばした。
「あ、ヤぁ、や、んぅ…─!」
わななき、中のトリコをきゅうきゅうとしぼりあげるように引き攣れる。
「ん、小松…もうちょい──ッ」
「やぁ!ま、っまって!動かな…あぁあ!」
激しくトリコを締め付ける内壁を、ぐっと押し広げる様に穿つ。
「ア──…ッ、やぁ───!!」
きゅうきゅうとさらに下腹部に力が入り、トリコによって左右に大きく広げられた股間ががくがくと勝手に動き出す。
ハ、ハ、ハ、ハと嬌声の合間に漏れる呼吸が早さを増す。
「小松」
小松、小松、とトリコは繰り返す。
大きなうねりが今まさに小松に襲いかかっている。
トリコはそれをより大きな波に変えようと追走する。
小松が一番感じた部分に、トリコの一番太い場所が当たるように、一切の遠慮なしに突き上げる。
「─────ッ!!!」
声にならぬ声が発せられたかと思うと、小松は全身をひどく強張らせ、絶頂を迎えたようだった。
びくびくと不規則に脈打ち、内部のトリコを締め上げる。
「ぐ、──は…す、っげ…」
過ぎる快楽にトリコは奥歯を噛みしめて耐えた。
うねりはなおも続きトリコを追い立てる。
小松はまだ快感の絶頂から戻ってこられないようで、小刻みに身体を震わせながらも目を閉じで感じ入っていた。

小松をぎゅうと抱きしめる。
呆けた顔で、はぁはぁと短い呼吸を繰り返していたが、トリコがゆっくりと動き出したので驚いて目を見開いた。
「やぁ!ダ、メ…ぇ!だっ…あぁ!!」
「今度は一緒にイこう、な」
「あぁあ、あん、あ…はぁ────っ…!」
どこにふれられても気持ちがいいのか、頬を撫でただけでも小松は震えた。
もはや声を押さえることもできないのか、あられもない嬌声を止めようともしない。
「ほら、こっちも」
「───ッ!!!」
今まで触れずにおいていた小松の分身を握りこむ。
小松はまだ一度も出していない。
先端からとめどなく溢れる雫を塗りこめるようにトリコは扱き始めた。
「ふ、…ほら、もうこれだけで出そうだな」
「ッ、っ!──、ッ!」
後ろでイったばかりの身体には、そこに与えられる刺激が強すぎて声を出す事さえできないようだった。
涙がとめどなく頬を伝う。
それを拭ってやることもせず、トリコは自分の昂ぶりを遠慮なく小松にぶつけ始めた。
「も、オレも限界…──!」
自然逸る腰の動きにもう遠慮はしなかった。
小松は声なき声を上げてただされるがままに受け入れる。
トリコが小松の最奥を貫いたと同時に、小松の鈴口を指先で強くくじった。
「───っ…!」
奥を穿たれる感覚とようやく訪れた解放の瞬間の快楽に、小松は背を大きくしならせた。
同時に、トリコも己を解き放つ。
小松の内部に全てを吐きだし、さらに奥に届くように腰を押し付け震わせる。
内壁にぶちまけられた感覚にすら快楽を拾った小松はトリコの腰に足を巻きつけ強く引き寄せた。
トリコの手の中に解き放った小松は、力なくベッドに身を沈めると、指先一つ動かすことが億劫なのか、ただ目を瞑って余韻に浸る。
トリコは押しつぶさないように気を付けながらも小松の上に覆いかぶさった。





はぁはぁ、と二人の呼吸だけが部屋に響く。
ぐったりと横たわる小松によいこよいこするようにを髪撫でつけ、汗でぬれた額と頬に残る涙の痕を優しく手の甲で拭ってやった。
そして啄むようにキスを繰り返す。
「──…」
小松はされるがままにただ目を閉じ呼吸を整えていた。
薄い胸が上下する。
お疲れさん、とトリコはいたわる様に全身をなでさすった。
まだ快感のなかにいるのか、それだけでも小松は小さく跳ねた。
トリコは満足気に、ただニコニコと。
「…どうしたんですか?」
「ん?なにが」
「──…いつもと、」
全然違うじゃないですか、とふいと顔を背けて恥ずかしげに呟く。
つい先ほどの自分の痴態を思い返しているのだろう、耳まで赤く染まっている。
「…初めて後ろでイったな」
「ッ!!」
事もあろうにそんな事を告げてくる。
小松は言葉を発することができずぱくぱくと口を開閉させ全身を朱に染めた。
「ほんと…どうしちゃったんですかぁ〜…」
恥ずかしくて居たたまれなくて俯せになりたくても、がっちりと抱きつかれていて身動きは取れず、ただ視線だけを天井に。
「んーー…、まぁ色々思うところがあってよ」
それと反省したんだ、と。
「反省、ですか?」
「ほら、よ、いつもオレばっかり気持ち良くなってさ、」
無茶したり、させてたりしてたから。
「気持ち良くなってもらいたかった」
「いつも、ちゃんと気持ち良かったですよ」
「いや、でもほらさ」
「本当です。ボクは、いつもちゃんと気持ち良かったです」
「小松…」

トリコが小松を求める。
それだけで小松は本当に嬉しかった。
たとえ少々無茶な事をされても、好意の上だとわかっていたから苦には思わない。…照れは別だが。
行為が終わった後、すぐ寝入るトリコにだって好感の対象でしかない。
普段、気を許さないこの人が他人の前で睡眠をとる行為をしないのを知っているから。
トリコが自分の身体で快楽を得てくれているのがこの上なく嬉しいのだと、どういえば伝わるだろうか。
しかし小松は言葉にはしなかった。
ただ、トリコの瞳を覗きこんで、微笑んで。

「小松…」
トリコはぎゅ、と力を込めて抱きしめた。
「あ、あの、でもっ!」
「ん」
「きょ、今日みたいなのはもう…その、しないで欲しい、です」
「なんで?気持ち良かったんだろ」
「ッ気持ち、良すぎて…」
ついていけないですと。
だから勘弁してくださいと。
「じゃ、たまにな」
すっげー良かったから、と臆面もなく言うトリコ。
恥ずかしくて逃げ出したくて「シャワーを浴びてきます」と言うのが精いっぱいだった。
トリコは腕の戒めを解いてやると黙って小松を見守った。
「──っあ、」
身体を起こそうと身じろぎした小松は赤面し、床に投げ飛ばされた毛布を手早くとると体に巻きつけた。
つ、と中から溢れた体液が内腿を伝って垂れてきたのだ。
「あ──…、全部お前ン中に出したからな」
いや、ほんっと気持ち良かった、とにやにやしながら。
カッカッとどんどん上昇する体温をどうすることも出来ず、ただ居たたまれなくてこの場を早く去ろうとした小松だが、動くたびにこぽり、と溢れ出すそれが羞恥を煽り、
さらには身体全体に力が入らず、数歩歩いただけでへなへなと床にへたり込んだ。
音もなく背後に回っていたトリコが毛布ごと小松をすくい上げる。
「無理すんなって、─…悪かった、辛いだろ」とちゅ、とほっぺに一つ。
ついでにこれも、と乱れ、汚れたシーツをはぎ取ると風呂場に直行し、シーツは洗濯機に放り込んでから小松の全身をくまなく洗ってやった。






空は白み、明け方特有の清浄な空気が一面に充満する。
今朝は冷え込んでいるようで、窓には霜が降りていた。
新しく変えたシーツと毛布にくるまって、二人は微睡ながらもひそひそと会話する。
「大体ね、普段からトリコさんはそこにいるだけでエロいんですから、これ以上拍車をかけないでくださいよ」
「はぁあ?お前にだけは言われたくねぇよ」
「何がですか」
「オレなんていっつもお前にその気にさせられてるってのによぉ」
「な、なんの事ですか」
に、と笑ってトリコは告げる。

「お前がオレの名を呼ぶ声」

それだけでいつでも欲情する。と、とんでもないことを事も無げに。











おまけ


「誰の入れ智惠ですか」
「は?」
ぎくり、と一瞬だけ身体をこわばらせたが、何事もなかったかのようにトリコは歩みを進めた。
「そうですねぇ、トリコさんが相談できそうな人…で、そういった会話が出来る人、でしょ、あ、わかった、十夢さんでしょ」
小松はトリコが何も言わぬままにいることを気にすることなく先を続けた。
「十夢さんってかっこいーですよねぇ」
「は?」
ほぅ、とため息をついて感じ入るように小松。
「だって、格好いいし性格も男前だし優しいし背も高いし筋肉もすごいし自分でお店もってるし船だって操縦できるし何より皆から頼りにされてるし他の人の事も気にかけ
てくれてたりするし…」
どんどんと止め処なく十夢の良い所を上げていく小松。
「オッ!オレだって格好いいだろうが!男前だし性格もいいし背も高いしマッチョだし、美食屋やってるしフグ捌く免許だってもってるし─…!!!」
はぁ〜、そういう所がねぇ、と残念そうに諸手を上げて首を振る。
「そりゃトリコさんもかっこいーですけどね、モテますしね。でもね〜」
ちまちまとトリコの前を歩きながらつらつらと。
「どっちかっていうと、本命なら十夢さん、恋人とかお遊びならトリコさん、って感じじゃないですかぁ〜?世間一般的に」
十夢さんの奥さん、大変だろうな〜、よく十夢さん射止められたよな〜、十夢さんも奥さんの事大事にしてるんだろうな〜──…
「─なに、それお前マジでいってんの?」
青ざめ、冷や汗を流しながら、普段なら絶対に置いて行かれることのない小松の後を力なき歩みでついていく。
「やだな〜、世間一般の話ですってば」
そう、世間一般ですよ〜、と朗らかに宣言する小松。
その世間一般の中に小松もはいってんじゃねぇだろうなと、追い付いてつめよると、さぁどうですかね、と軽くいなされる。
「こ、小松さん?!」
「男の中の男!THE男の憧れ☆って感じですよね!」
満面の笑みで。
ついに歩みを止めたトリコはその場に縫い付けられたように動けずにいた。
「ほら、トリコさん、ちゃんと歩いてくださいよ。もうすぐなんですから」
場所はグルメ中央卸売市場──
この少し先に十夢が経営する問屋がある。
休みの最後の日、トリコはオイルを弁償すべく、十夢に掛け合おうと小松と連れ立って来たのだ。
「十夢の野郎ぅ…よもや小松にまで毒牙にかけ誑かしていようとは…」
許さねぇ…とブツブツと不穏な呟きを落としながら、わなわなと拳を握りしめて重い足取りで歩き始めた。
ふふ、と小松は含み笑い。
もちろんさっき述べた口上に嘘偽りはない。
男として、人間として尊敬している。
今までにも何度もお世話になった。
出来るならそうありたい、そんな憧れの人。
もちろん恋とは違う。
ただ──
トリコが尊敬する一人でもあり、分別ある大人で、対等な立場で付き合いの出来る人。
小松には真似できない立ち位置にいる人。

敵わない、と小松が正直、嫉妬する人───


だからこれはちょっとした意趣返し。


さぁ、十夢の店まであと少し。




◆終わりました〜。
 なんかだらだらと続けてしまいましたが…いちゃいちゃさせられて満足です(。≧ω≦)ノ
 初めはホントにもっと短く終わらすつもりだったんですが、なぜかどんどんいらん事を突っ込んで長くなっていってしまう…
 ギャグ要素なんて一切いれてなかったんですがね!

 可哀そうなのは十夢さんですかね?!
 トリコマ夫婦に巻き込まれてしまってますね!

 でもホンマに十夢さんはえー男やと思うんですよ。
 旦那にするなら是非!


※閲覧ありがとうございました!